2021-01-01から1年間の記事一覧

穏やかな眼差しの中で (仮題) 4

MにYさんへの好意を打ち明けるのは、どこか清々しいものがあった。六年もの間、膨大に貯めてきた秘め事は大きな湖になり、その堰をMに開いてこころもち水を流してみたところ、導通にくすぐったさを覚えて次第に快楽となり、その水の勢いは自らとどまると…

穏やかな眼差しの中で (仮題) 3

この日以降、僕とMは親睦を急速に深めてゆく。バスケットボール部だったMも陸上部の不良少年に強いあこがれを抱くようになり、真面目な気質をある程度保った僕を追い越すようにして、Mは煙草や酒を嗜んだ。また彼とはヴィジュアル系の音楽の趣味を共有す…

穏やかな眼差しの中で (仮題) 2

第一章 鎧(よろい) (仮題) 今から考えると奇妙なことだが、幼少期の僕は女性に恋をし、女性の身体に憧れる性質(たち)だった。保育園にあずけられていた頃、つまり五歳の頃にはすでに同園の女児に特別な感情を抱いており、そっぽを向かれて落ち込んだことを今…

穏やかな眼差しの中で (仮題) 1

序 森の匂いが山の向こうから運ばれてくる。頬にあたる冷たい風は僕に昔の記憶を呼び起こす。昔と言っても、それがどの程度昔であったか、あまりはっきりとはわからないほどに懐かしく、ぼんやりとしていて、それが今でも僕の体のどこかに澱として消化しきら…